貸し。

寒い

寒い

寒い 

 

とにかく、寒い…

 

 

私は今、夜の寒空の下

とんでもない軽装で自転車を漕いでいる。

 

 

ありえない・・・・

絶対にありえない・・・・・・・

職業柄、いつも防寒対策はバッチリのハズの私が。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い返せば、

5分前…

 

 

次の日が遠出の試合で、5時起きの為

私はいつもより早めの寝床に入っていた。

 

ウトウトし始めたところに嫁さんが声を掛けて来る。

『○○(長女)が帰ってこないんだけど…』

 

 

 

 

 

時間は夜10時を過ぎている…

いつもならとっくに帰ってきている時間だ。

 

いつも通りに所属チームの練習に行っていた長女。

 

そういえば、

午後8時半過ぎに『駅まで迎えに来て…』と、長女のお友達の携帯からメール届いていた。

 

 

おそらく、長女は自分の携帯の充電がなくなった為

お友達の携帯を借りてメールしてきたのだろう。

 

 

 

 

ただ

長女は自転車で駅に行っている。

自転車を駅に置いてくるか車に無理やり自転車を積み込まなければならない。

 

 

その他、色々な要素を考えた結果、『自分の自転車で帰ってこい…』と、返信はしてあった。

もちろん、そのお友達の携帯に…

 

 

この時間になっても帰ってこないのから察するに・・・

メールは、一方的に送るだけ送っておいて

確認せずに、お友達とは分かれてしまった為に返信は見ていない。

 

 

そんで、駅で待っている…

 

そんな状況が容易に想像できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それか

何かのアクシデントに巻き込まれたか・・・・

 

 

 

・・・・ 

 

 

・・・・ 

 

 

・・・・

 

 

 

  

『じゃあ、俺も駅まで行こうか…』

 

と言って、嫁が運転する車に一緒に乗り込んだのが

ほんの5分前。

 

呆れる気持ちに、一握りの『心配』がある。

 

 

 

 

 

 

駅まで向かう道の信号待ちで

自転車のカゴに大きなエナメルバッグを入れて

うつむきかげんで自転車を漕ぐ少女が横切る

 

 

 

『あれだ…』

 

 

 

誰が見ても、

急いで漕いでいるのがわかる自転車。

 

 

 

車で後ろから、その自転車にに近づき

 

 

 

冗談交じりに

『おいっ!お前、何やっとんねん!!』

と、声をかけてビックリさせようと試みる

 

 

 

 

期待していた

『ビックリ』が見れない。

 

 

 

 

それどころか

表情こそは見えないが

ホっとした感じで、自転車が止まる。

 

 

 

  

 

 

 

 

『だって、お腹が痛かったんだもん……』

 

半べそ

 

いや、『全べそ』の方が近い娘の表情が見えてくる。

 

 

 

 

 

 

 

  

『乗れ…』

 

 

と、言って

自転車を受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寒い

寒い

寒い 

 

 

とにかく、寒い…

 

 

 

 

 

俺は明日、5時起きなんだぞ!

お前が、お腹が痛いことなんて聞いてねーし!

 

 

 

 

つーかよ、頼むだけ頼んでメールの返信を確認してないお前が悪いし!

だいたいよ〜お前は、いつも携帯の充電を切れちゃうし!

 

 

 

 

 

 

甘い

甘い 

甘い

 

 

俺は甘やかしてしまった。

 

 

 

 

 

 

自分の蒔いた種なんだから…

 無事が確認出来たんだから…

 

そのまま自転車で帰らせれば良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

咄嗟に、代わってしまった自転車の運転

 

あ〜〜〜〜〜〜〜

 

せめて、カゴの中の

この重いエナメルバッグだけでも

一緒に持って行かせれば良かったな。

 

 

 

 

重いし…

寒いし…

 

 

 

いや

とにかく、寒い。

 

 

 

 

 

 

 

 

娘よ

これは『貸し』だ。

いつか必ず返してもらうぞ。

 

 

 

 

 

 

そうだ

この『貸し』は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか存在するであろう

貴女の子どもに

必ず返しなさい。